東北大学病院 精神科

2021.05.20

臼倉瞳助教による、COVID-19対応に追われる保健所職員のメンタルヘルスに関する論文がAsian Journal of Psychiatryに掲載され、プレスリリース後、報道各社に取りあげられました。

【研究のポイント】
・新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)に関する電話相談対応を行っている、あるいは行った経験のある宮城県の保健所職員・関係者にアンケート調査を実施しました。
・分析対象者23名のうち、不眠症状が69.6%、心理的苦痛が56.5%、心的外傷後ストレス反応(極度のストレスを体験した後に生じる心身の不調)が45.5%にみられました。一部は、COVID-19診療に従事する医療従事者に匹敵する割合の高さでした。
・電話相談対応の中で感じた困難は、「相談者への対応の難しさ」、「PCR検査の要否や紹介先の判断の難しさ」、「有事対応に伴う過重な業務体制」の大きく3つに分類されました。
・保健所職員のストレスケアの重要性とともに、一般の方の相談マナーの再考の必要性が示唆されます。
【研究概要】

  COVID-19パンデミック下において、医療従事者が様々なメンタルヘルスの問題を抱えていることは知られていますが、膨大かつ多様な業務を抱える保健所職員に焦点を当てた実証的研究は国内外ともに行われてきませんでした。東北大学災害科学国際研究所の臼倉瞳助教、國井泰人准教授、同大学院医学系研究科の富田博秋教授、小坂健教授、東北大学病院精神科の瀬戸萌氏らの研究グループは、COVID-19感染拡大状況下において保健所職員が抱えるメンタルヘルスの問題の詳細を明らかにするために、2020年9~11月に宮城県の保健所職員・関係者にアンケート調査を実施しました。
 その結果、分析対象者23名のうち、最もハイリスク者数が多かった指標は不眠症状で、約7割(69.6%)にのぼりました。次いで、心理的苦痛が半数以上(56.5%)、心的外傷後ストレス反応が半数近く(45.5%)でハイリスクの状態であることが明らかになりました。抑うつ症状は31.8%、不安症状は17.4%、飲酒問題は18.2%がハイリスク者でした。本研究で示されたハイリスク者の割合の一部は、最前線で治療に当たる医療従事者を対象とした研究で示されている数字に匹敵する高さでした。また、電話相談対応に従事する中で辛かった点・困難に感じた点に関する自由記述回答について分析したところ、苦情等の相談者への対応に苦慮していることなどが含まれる「相談者への対応の難しさ」、「PCR検査の要否や紹介先の判断の難しさ」、職場の労働安全衛生やサポート体制などが含まれる「有事対応に伴う過重な業務体制」の大きく3つに分類されました
 限られた地域・人数に基づく調査結果ではありますが、本研究をうけて、職員に対するストレスケアマネジメントの実施、職員の増員、電話相談対応の指針の提示・対策整備などの重要性が認識されるとともに、広く一般の人々に対して、保健所職員の抱えるストレスの大きさと保健所職員に対する相談者のマナー再考の必要性が周知されることが期待されます。
 本研究成果は、2021年5月18日、Asian Journal of PsychiatryにLetters and Correspondenceとして掲載されました。

【論文情報】
Hitomi Usukura, Moe Seto, Yasuto Kunii, Akira Suzuki, Ken Osaka, Hiroaki Tomita.
The mental health problems of public health center staff during the COVID-19 pandemic in Japan. Asian Journal of Psychiatry 2021; 61: 102676.
https://doi.org/10.1016/j.ajp.2021.102676

【報道・メディア掲載】
2021. 5. 20 東日本放送 宮城の保健所職員7割が不眠症状 東北大学の調査
2021. 5. 21 東北放送 保健所職員 半数近く心身不調 新型コロナ電話対応で・宮城
2021. 5. 21 河北新報 保健所職員 メンタル悪化 東北大調査 相談対応や業務負担重く
2021. 5. 21 読売新聞 理不尽な叱責に苦情…コロナ電話相談の保健所職員、7割が「眠れない
2021. 5. 25 朝日新聞 コロナ電話対応、保健所職員の7割「不眠」 東北大調査
2021. 5. 25 NHK東北 県内の保健所職員「7割が不眠」 多くが心身の不調
2021. 6. 1  読売新聞 コロナ対応 保健所疲弊(臼倉助教コメントのみ掲載) ほか
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