2011年3月11日に発生した東日本大震災(以下、震災)によって、被災地では、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患、自殺などの心の問題についての懸念が広がりました。そこで、震災後の宮城県における精神保健医療システムを再構築し、予防精神医学的観点から精神疾患の早期発見と早期介入に対応した新たな精神保健医療モデルを創出することを目的に、2011年10月に本寄附講座は設立されました。
特に、震災後の被災地における精神保健ニーズに対応するため、宮城県が設置したみやぎ心のケアセンターと連携し、同センターの機能を補う役割を担っています。みやぎ心のケアセンターは、主に自治体の精神保健行政と連携した直接的な支援を担当していますが、本寄附講座は、復興期に持続的にストレス負荷がかかる支援者の健康調査や支援、予防精神医学に基づく新たな心理介入や地域での支援方法の開発、専門家に対する高度な専門教育など、同センターでは担うことができない役割を担うことで、被災地域での精神疾患の予防とメンタルヘルス全般の向上を図っています。
設立以来、被災地の自治体職員、看護職員、生活支援員、消防隊員等の精神的健康についての疫学的縦断調査とこれに基づく相談や支援、認知行動理論に基づく地域住民への介入、復興期に役立つ心理学的治療方法の開発、精神医療機関の被災状況と対応についての調査、心理支援についての専門家への研修事業、地域住民や専門家への啓発や教育、精神疾患の早期介入のための臨床研究、みやぎ心のケアセンターへの非常勤職員派遣などの活動を行い、厚生労働省/文部科学省科学研究費などの研究資金を獲得し、精力的な活動を継続してきました。
震災後の精神疾患や精神的問題によって引き起こされる様々な影響を最小限に止めるために、次項(3)の予防精神医学的研究に基づき、震災後の精神保健医療福祉に関わる医師、保健師、看護師、臨床心理士、精神保健福祉士などの震災対応の高度専門人材を育成しています。さらに、一般医をはじめ、学校保健、産業保健、地域保健の関係者に対して、被災者の心の問題への一次的対応能力を向上させるための教育を行っています。同時に、避難所や仮設住宅の避難者を含めた被災者、並びに被災者を支援する人々のメンタルヘルス向上のために啓発活動も担っています。
以下の研究を通して、被災地域の精神保健医療福祉体制の再構築に取り組んでいます。
精神保健医療福祉の専門職がみやぎ心のケアセンターと協力して、被災地へのアウトリーチ活動によってメンタルヘルスケアを行っています。また、重症者に対しては、関連分野である精神神経学分野(東北大学病院精神科)の協力の下で外来や入院での診療を行う体制を整えています。
本寄附講座の人的支援や調査研究を通して、心のケアセンターの機能をより有効なものにし、被災地域での学校・産業保健、精神保健福祉医療に関する専門的指導を包括的に行い、精神疾患の予防とメンタルヘルスの向上を図ることができます。これら予防精神医学の実践や研究の成果を通して、被災地の大学として震災対応のノウハウを世界に発信していきます。